相続人が行方不明で遺産分割できない3つの対処

相続した土地

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「親が亡くなって実家や土地の相続を進めたいのに、兄弟姉妹の一人と何十年も連絡が取れない」「相続人全員の同意が必要と言われたが、そもそも居場所が分からない人がいる」——。相続人のうち一人でも行方が分からないと、遺産分割協議がそろわず、遺産分割に基づく実家の名義変更や売却が、通常の進め方では詰まりやすくなります。数十年疎遠だった家族に、親の死をきっかけに向き合わざるを得なくなる。そんな重い場面で悩んでいる方は少なくありません。

私はかつて土地の取引や所有者の方とのやり取りに関わる中で、名義や相続人の確認が曖昧なまま話が進むと、あとで手続きが止まりやすいと感じる場面がありました。専門家ではありませんが、その経験から言えるのは、「連絡が取れない」と「本当に所在が分からない」と「生死が分からない」は、それぞれ取るべき手続きが違う、ということです。この記事では、相続人が行方不明で遺産分割ができないときの対処を、3つに整理してお伝えします。

相続人が一人でも欠けると、遺産分割は止まる

まず前提として、遺言がない場合、遺産の分け方は共同相続人の話し合い(遺産分割協議)で決めるのが原則です。民法907条は、相続人が協議で遺産分割できること、協議がまとまらない・協議ができないときは家庭裁判所に分割を請求できることを定めています。

ここで大切なのは、遺産分割協議は相続人全員が参加して初めて有効になるという点です。一人でも欠けたまま作った遺産分割協議書は、原則として効力を持ちません。遺産分割は、相続人全員を手続きに関与させて進める必要があります。行方不明者を外して協議書を作るのではなく、あとで触れる不在者財産管理人などの制度で、その人を手続きに乗せることを考えます。

だからこそ、行方不明の相続人がいる場合は、その人を「どう手続きに乗せるか」を考える必要があります。次の章で、状況別の3つの対処を見ていきます。

相続人が行方不明のときの3つの対処

対処1:まず戸籍・戸籍の附票で住所を調べ、連絡を試みる

いきなり裁判所の手続きに進む前に、まず相手の現在の住所を調べることから始めます。ここを飛ばして「連絡が取れない=行方不明」と決めつけないことが大切です。

具体的には、亡くなった方の出生から死亡までの戸籍をたどって相続人を確定し、その相続人の戸籍の附票(本籍地で管理されている、住所の移り変わりの記録)や住民票で、登録上の現住所を確認します。登録上の住所が分かれば、まずは手紙や、場合によっては内容証明郵便などで連絡を試みることができます。長年疎遠でも、住民登録上の住所は残っていることが多いものです。戸籍収集や相続人調査は司法書士など、すでに連絡を拒まれている・争いになりそうといった場合は弁護士に相談する方法もあります。

対処2:本当に所在が分からないなら、不在者財産管理人を申し立てる

住所を調べても居所が分からず、簡単には戻る見込みがない——。このように本当に所在不明の相続人がいる場合の代表的な手続きが、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てる方法です。

不在者財産管理人とは、行方が分からない人(不在者)に代わってその財産を管理する人のことです。裁判所は、不在者を「従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者」とし、申立てにより財産管理人の選任等ができると説明しています。選任された管理人は、家庭裁判所の許可(次に触れる権限外行為許可)を得たうえで、不在者に代わって遺産分割協議に加わることができます。

ただし注意したいのは、管理人が選ばれれば自動的に自由に分割できる、というわけではない点です。遺産分割協議に加わったり、不動産を売却したりといった、単なる管理を超える行為をするには、別途、家庭裁判所の権限外行為許可が必要になります。また、不在者の財産状況によっては、管理費用や報酬に備えるため、申立人に予納金が求められることがあります。金額は裁判所や財産の内容によって異なるため、申し立てる前に家庭裁判所や専門家に確認しておきましょう。

対処3:生死不明が長期なら失踪宣告、協議拒否なら遺産分割調停

同じ「進まない」でも、状況によって使う手続きが変わります。

一つは、生死不明の期間が長い場合です。生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、または戦争・船舶の沈没・震災などの危難が去った後1年間生死が分からないとき(危難失踪)は、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てられます。これは行方不明者を法律上「死亡したものとみなす」効果を持つ、重い制度です。失踪宣告がされると、その人は法律上死亡したものとして扱われ、誰が相続人になるかといった相続関係にも大きな影響が出ます。単に連絡が取れないだけで使うものではなく、あくまで生死不明の状態が長く続いた場合の手続きだと理解しておきましょう。

もう一つは、住所は分かっているのに返事がない、あるいは協議に応じない・条件で揉めている場合です。これは厳密には「行方不明」ではなく「協議がまとまらない」状態です。この場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。調停は、相続人のうち1人(または何人か)が、他の相続人全員を相手方として申し立てるものです。調停委員を交えて話し合いを進め、まとまらなければ自動的に審判手続きに移り、裁判所が分割方法を判断します。ただし調停でも、相手方となる相続人の住所や書類の送達が問題になることがあるため、申立て前に専門家へ確認しましょう。「連絡不能」なのか「連絡拒否」なのかで進む道が違う、と押さえておくと迷いにくくなります。

なお、相続人どうしで争いがある場合や、遺産分割調停・失踪宣告・不在者財産管理人の申立てを進める場合は、弁護士への相談が必要になることがあります。戸籍集めや書類作成は司法書士が対応できる場面もありますが、相手方との交渉や調停での代理は弁護士の領域です。相談サービスを使うときも、「どこまで対応してもらえるのか(裁判所手続きや紛争対応まで任せられるのか)」を最初に確認しておきましょう。

相続人の調査や不在者財産管理人・失踪宣告の申立ては、弁護士・司法書士など対応できる専門家への相談が安心です。相談サービスを使う場合も、対応できる範囲を確認しておきましょう。

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なお、祖父・曽祖父の代から名義が変わっておらず、そもそも相続人が誰なのか・何人いるのかから分からないというケースは、行方不明とは別の詰まり方をします。その場合は祖父名義のままの土地を相続する3つの手順もあわせてご覧ください。

手続きの進め方4ステップ

行方不明の相続人がいる遺産分割は、次の順番で進めると整理しやすくなります。

まず、亡くなった方の戸籍をたどって相続人を確定します。誰が相続人かを正確に押さえないと、その先の手続きが組み立てられません。次に、各相続人の戸籍の附票・住民票で現住所を確認し、分かる人には連絡を試みます。ここで連絡がつけば、通常どおり遺産分割協議に進めます。

それでも所在が分からない相続人が残ったら、状況に応じて家庭裁判所の手続きを選びます。所在不明なら不在者財産管理人の選任、生死不明が長期なら失踪宣告、住所は分かるが応じないなら遺産分割調停、という使い分けです。どの手続きが適切かは個別事情によるため、この段階で弁護士・司法書士に相談すると判断がスムーズです。最後に、相続人(または代わりとなる管理人)がそろったら遺産分割を成立させ、相続登記や売却へ進みます。

「相続登記の期限」にも注意する

もう一つ見落としがちなのが、相続登記の義務化との関係です。2024年(令和6年)4月から相続登記が義務化され、相続で不動産を取得したことを知った日から原則3年以内に登記申請をすることが求められ、正当な理由なく放置すると過料の対象になり得ます。あわせて、遺産分割が成立した場合は、その成立日から3年以内に、内容に応じた相続登記が必要になる点にも注意してください。

行方不明の相続人がいて遺産分割がまとまらないと、「登記したくてもできない」状態が続きます。このような場合の受け皿として、相続人申告登記という簡易な手続きが設けられています。相続が開始したことと自分が相続人であることを法務局に申し出るもので、他の相続人と共同でなくても単独で申告できます。ただし、これで申請義務を果たしたものと扱われるのは基本的に申し出をした相続人本人で、他の相続人の義務までまとめて解消するものではありません。しかも、あくまで義務違反を避けるための暫定的な手続きで、最終的な名義変更でもありません。実家を売却したり、権利関係をすっきり整理したりするには、結局は遺産分割と相続登記が必要になる点は理解しておきましょう。

行方不明者の捜索や家庭裁判所の手続きには時間がかかります。3年という期限を意識しつつ、期限に間に合わないおそれがあるなら、早めに相続人申告登記で義務を果たしておく、という判断も選択肢になります。税金・法律の具体的な判断は、税理士・司法書士など専門家に確認してください(相続人調査・遺産分割・不在者財産管理人や失踪宣告の申立ては、弁護士・司法書士・家庭裁判所が相談先になります)。

まとめ

相続人が行方不明で遺産分割ができないときは、次の3つで整理すると考えやすくなります。①まず戸籍・戸籍の附票で住所を調べ、連絡を試みる(いきなり裁判所に進まない)②本当に所在不明なら不在者財産管理人を申し立てる(遺産分割や売却には権限外行為許可・予納金の負担にも注意)③生死不明が長期なら失踪宣告、住所は分かるが応じないなら遺産分割調停を使う(「連絡不能」と「連絡拒否」を分ける)。あわせて、相続登記義務化の3年の期限と、相続人申告登記という受け皿も頭に入れておきましょう。

今日できる最初の一歩は、亡くなった方と各相続人の戸籍・戸籍の附票を取り寄せて、「誰が相続人で、連絡がつくのは誰か」を紙の上で一覧にしてみることです。全体像が見えれば、どの相続人にどの手続きが必要かが整理できます。一人で抱え込まず、早めに弁護士・司法書士など専門家に相談すると、必要な手続きと順番を整理しやすくなります。

よくある質問

連絡が取れない相続人を外して、残りの相続人だけで遺産分割してもいいですか?

原則としてできません。遺産分割協議は相続人全員が参加して初めて有効になり、一人でも欠けたまま作った遺産分割協議書は効力を持たないのが基本です。実家や土地の相続登記・売却でも相続人全員の関与が問題になります。連絡が取れない相続人がいる場合は、住所調査・不在者財産管理人・失踪宣告・遺産分割調停などの手続きで、その人を手続きに乗せる必要があります。判断に迷う場合は弁護士・司法書士に相談しましょう。

不在者財産管理人を選任すれば、すぐに遺産分割や売却ができますか?

選任されただけでは足りません。不在者財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議に加わったり、不動産を売却したりといった、単なる管理を超える行為をするには、別途、家庭裁判所の権限外行為許可が必要です。また、不在者の財産状況によっては予納金を求められることがあり、金額も小さくない場合があります。事前に家庭裁判所や専門家に確認しておくと安心です。

失踪宣告と不在者財産管理人は、どう使い分けますか?

大まかには、生死が長く分からない(普通失踪で7年、危難失踪で1年)ほど深刻な状態なら失踪宣告、生死は不明とまでいえないが所在が分からず戻る見込みがないなら不在者財産管理人、という整理になります。失踪宣告は行方不明者を法律上死亡したものとみなす重い手続きで、単に連絡が取れないだけでは使いません。どちらが適切かはケースによって異なるため、弁護士・司法書士や家庭裁判所に確認しましょう。

参考にした公式情報

※制度の要件や費用は改正や個別の事情により変わることがあります。最新の情報は上記の公式情報や、家庭裁判所・弁護士・司法書士など専門家にご確認ください。

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