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親が亡くなり、実家をきょうだいで相続することになったものの、一人(たとえば兄)がそのまま住み続けている。自分にも権利があるはずなのに、実家を使うことも売ることもできない——。「なぜ一人だけがタダで住んでいるのか」「出ていってと言えるのか」「家賃はもらえないのか」と、もやもやを抱える方は少なくありません。まだ遺産分割が終わっていない場合も、分割後に共有名義になっている場合もありますが、まずはそこを分けて考えるのが解決の第一歩です。
私は土地の取引や所有者の方とのやり取りに関わってきました。法律の専門家ではありませんが、法務省・裁判所の情報をもとに整理すると、このテーマは「兄が住んでいる→家賃を請求→出なければ強制的に分割」と単純にはいかない、というのが実情です。住んでいる側にも、親の生前から同居していたなどの事情があることも多く、法律上もそこが重要になります。まずは落ち着いて、次の順で確認していきましょう。
その前に確認する2つのこと
対処に入る前に、2つのことを確認してください。これで取るべき手続きが変わります。
- ①遺産分割は終わっていますか? まだ終わっていない(誰が何を相続するか決まっていない)なら、実家は相続人全員の「遺産共有」の状態です。この場合は、原則として遺産分割で決めるのが先になります。一方、遺産分割協議や遺言などによって「兄1/2・自分1/2」のように共有で取得することが確定しているなら、後述の共有物分割の話になります(登記簿に法定相続分の持分が載っているだけでは、遺産分割が済んだとは限りません)。
- ②住んでいるきょうだいは、親の生前から許可を得て住んでいましたか? 親と同居していて、親から「住んでいい」と認められていた場合は、あとで触れる「家賃(使用対価)」の扱いが変わります。
この2つで対応が分かれる、と頭に置いたうえで、3つの対処を見ていきます。
兄弟が住み続ける実家、3つの対処
対処1:「出ていけ」と当然には言えない
まず、意外に思われるかもしれませんが、住んでいるきょうだいに対して「自分にも持分があるのだから出ていけ」と当然に明渡しを求められるわけではありません。共有者は、それぞれが共有物の全部について、持分に応じた使用ができるとされています(民法249条1項)。つまり、住んでいる兄も、共有者として使用する権限自体は持っているのです。
過去の裁判例でも、共有者の一人が住んでいる場合に、他の共有者が持分の過半数を持っているというだけでは、当然には明渡しを求められない、という考え方が示されています。とはいえ、「共有者だから絶対に追い出せない」わけでもありません。使用に関する共有者間の合意や、占有に至った経緯などによっては、明渡しが認められる場合もあります。明渡しを求めたいかどうかは、争いになりやすく個別性が高いので、弁護士に相談するのが確実です。
対処2:使用対価(家賃相当)は請求できることがある——ただし親の許可が鍵
「では、住んでいる分の家賃はもらえるのか」。ここは2021年の民法改正(2023年4月施行)で整理されました。共有物を使う共有者は、別段の合意がない限り、自分の持分を超える使用の対価を、他の共有者に償還する義務を負うとされています(民法249条2項)。つまり、一人が実家全体を使っている場合、他の共有者は持分に応じた使用対価(賃料相当額)を請求できることがあります(賃貸借契約が結ばれるわけではないので、厳密には「家賃」ではなく使用対価です)。
ただし、ここで最大の注意点があります。住んでいるきょうだいが、親の生前から親と同居し、親の許可を得て無償で住んでいたような場合は、事情が変わります。最高裁平成8年12月17日の判決では、共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許可を得て同居していた場合、特段の事情がない限り、遺産分割が終わるまでは無償で住むことを認める合意(使用貸借)があったと推認する、という考え方が示されています。この場合、その期間の使用対価を請求できないことがあります。だからこそ、先ほどの「②親の生前から許可を得ていたか」が効いてくるのです。過去分をさかのぼって請求できるか(改正前から続く使用も含めて)は、占有の経緯によって大きく変わるため、弁護士に確認しましょう。
対処3:共有状態を終わらせる(遺産分割 or 買取・売却・共有物分割)
話し合いで折り合えず、この宙ぶらりんな状態を終わらせたいなら、次のように進みます。
- 遺産分割がまだなら:まず相続人同士で遺産分割協議を行い、まとまらなければ家庭裁判所の遺産分割調停・審判を検討して、実家を誰が引き継ぐかを決めます。共有のまま塩漬けにせず、住む人が他のきょうだいの取り分を金銭で払う、売って分ける、といった着地を目指します。
- 共有で相続することが確定しているなら:共有物分割を検討します。話し合いで全員が合意すれば、実家を通常どおり売却して代金を分けることもできます。話し合いが調わなければ、地方裁判所などに共有物分割の訴えを起こすことになり、この場合、裁判所はまず現物分割や価格賠償(一人が実家を取得し、他の共有者へお金を払う)を検討し、それが難しいときなどに競売を命じることがあります(必ず競売になるわけではありません)。実家の建物は物理的に分けにくいため、「住む人が他の持分を買い取る」「全員で売却して代金を分ける」方法が検討されることが多くなります。
なお、どうしても話がまとまらず動かない場合の最後の出口として、自分の共有持分だけを専門の買取業者に売る方法もあります(遺産分割が終わり、自分の持分が確定している場合)。これは他の共有者の同意なしにできますが、価格は、家全体を売った場合を単純に持分割合で割った金額より低くなりやすく、買った業者が新たな共有者になって家族関係がこじれる可能性もあるため、慎重に判断すべき最終手段です。すでに明渡しや使用対価で争っているなら、持分を売る前に弁護士に相談する選択肢もあります。
話し合いがどうしても動かず、自分の共有持分だけでも手放したいときは、共有持分を扱う専門の買取に相談できる場合があります。
価格が下がりやすい点や他の共有者との関係もふまえ、まず条件を確認する材料に。
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共有名義そのもののトラブルと解消法の全体像は共有名義の土地で起きる3つのトラブルと解消法を、実家をきょうだいでどう分けるかは実家を兄弟で相続したときの分け方4つと注意点もあわせてご覧ください。
見落としやすい:固定資産税は住んでいない人にも来る
もう一つ押さえておきたいのが、固定資産税です。共有の不動産は、共有者全員が連帯して納付する義務を負います。市区町村との関係では、「自分は持分1/2だから半分だけ」ではなく、各共有者が全額について納税義務を負うとされています。住んでいないきょうだいにも、納税の責任が及ぶ可能性があるということです。
一方、共有者どうしの内部では、管理費用などは原則として持分に応じて負担するとされています(民法253条)。「住んでいる兄が全部払うべき」と自動的に決まるわけではなく、使用対価や修繕費とあわせて話し合いになることが多い部分です(具体的な修繕費の精算は、内容によって判断が変わります)。税金・法律の具体的な判断は、税理士・司法書士など専門家に確認してください(明渡し・使用対価の請求・遺産分割や共有物分割の争いは弁護士、登記は司法書士が主な相談先になります)。
まとめ
共有で相続した実家に、きょうだいの一人が住み続けている場合は、まず①遺産分割は終わっているか②親の生前から許可を得て住んでいたかを確認するのが出発点です。そのうえで、①「出ていけ」と当然には言えない②持分に応じた使用対価を請求できることがあるが、親の許可があれば請求できない期間もある③解消は、遺産分割前なら遺産分割、共有確定後なら価格賠償・売却・共有物分割(最後の手段として自分の持分の売却)という順で考えると整理できます。
今日できる最初の一歩は、「遺産分割が終わっているか」「住んでいるきょうだいは親の生前から住んでいたか」「固定資産税は誰が払っているか」を書き出して整理することです。住んでいる側にも事情があることが多いので、感情的にぶつかる前に事実を整理し、明渡しや金銭の請求まで考えるなら、早めに弁護士に相談するのが安全です。
よくある質問
共有で相続した実家に住んでいる兄に、「出ていけ」と言えますか?
自分にも持分があるからといって、当然に明渡しを求められるわけではありません。共有者はそれぞれ共有物の全部を持分に応じて使用でき、住んでいる兄も使用する権限自体は持っているためです。ただし「絶対に追い出せない」わけでもなく、共有者間の合意や占有の経緯によっては明渡しが認められる場合もあります。個別性が高いので弁護士に相談しましょう。
住んでいる分の家賃は請求できますか?
一人が実家全体を使っている場合、他の共有者は持分に応じた使用対価(賃料相当額)を請求できることがあります(2021年民法改正・2023年施行)。ただし、住んでいるきょうだいが親の生前から許可を得て無償で住んでいた場合などは、遺産分割が終わるまでの期間について請求できないことがあります。過去分をさかのぼれるかは経緯によるため、弁護士に確認しましょう。
兄が遺産分割にも応じず、実家も動かせません。どうすればいいですか?
まだ遺産分割が終わっていないなら、家庭裁判所の遺産分割(調停・審判)で決着を目指します。共有で相続することが確定しているなら、価格賠償(一人が取得し他へ金銭)や売却、話し合いが調わなければ共有物分割の訴えを検討します。それでも動かない最後の手段として、自分の共有持分だけを売る方法もありますが、価格が下がりやすく、第三者が新たな共有者になるリスクもあります。争いになりそうなら弁護士に相談しましょう。
参考にした公式情報
- e-Gov法令検索「民法」(第249条 共有物の使用・第256条 分割請求・第258条 共有物の分割)
- 法務省「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法(共有制度の見直し)」
- 裁判所「遺産分割調停」
- 東京都主税局「相続があったとき」(固定資産税は共有者が連帯して納税義務を負う)
※制度の要件や判断は個別の事情により変わることがあります。最新の情報は上記の公式情報や、弁護士・司法書士など専門家にご確認ください。

