空き家の倒壊・瓦の落下は誰の責任?3つの備え

相続した土地

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相続した実家が空き家のまま、年々傷んでいく。近所から「瓦が落ちそう」「塀が傾いている」と言われた。遠方でなかなか見に行けず、解体費用もすぐには出せない——。台風のたびに落ち着かない気持ちになる方は少なくありません。

ここでよくある誤解があります。「台風で飛んだのだから不可抗力で、責任は問われないのでは」というものです。残念ながら、そうとは限りません。私は土地の取引や所有者の方とのやり取りに関わってきました。法律の専門家ではありませんが、民法・国土交通省・裁判所の公開情報をもとに、何が責任の分かれ目になるのかと、言われたときにどう動くかを整理します。

「台風だから不可抗力」とは限らない

民法717条は、土地の工作物の設置または保存に瑕疵があって他人に損害を与えたときの責任を定めています。構造はこうです。

  1. まず占有者が被害者に対して責任を負う
  2. ただし占有者が損害の発生を防ぐのに必要な注意をしたときは、所有者が責任を負う
  3. そして所有者には、占有者にあるような免責の規定がありません

ここだけ読むと恐ろしく聞こえますが、「古い空き家を持っているだけで、何かあれば必ず賠償」ではありません。 前提として、工作物に瑕疵があることと、その瑕疵によって損害が生じたことが必要です。

「瑕疵」とは何か

裁判例では、717条の瑕疵を「工作物が通常有すべき安全性を欠いていること」とし、構造・用途・場所の環境・利用の状況などを総合して個別に判断するとされています。

つまり、見た目が古いというだけで自動的に瑕疵になるわけではありません。 一方で、瓦が以前から大きくずれていた、外壁材が浮いていた、塀に大きな傾きやひび割れがあった、腐食が進んで倒壊のおそれがあった——こうした状態は、瑕疵の判断材料になり得ます。

ここが「台風なら不可抗力」が通らない理由です。 問われるのは災害の有無ではなく、事故の前にその建物が通常備えるべき安全性を備えていたか。阪神・淡路大震災のマンション倒壊をめぐる裁判例でも、地震だけの不可抗力とはされず、建物の瑕疵と地震動が競合したとして717条の責任が認められたものがあります。

逆に言えば、きちんと安全性を確保していて、それでも想定を大きく超える災害で損害が出た場合には、瑕疵自体が否定される可能性があります。日ごろの点検や修繕の状況は、建物が通常備えるべき安全性を保っていたかを判断する重要な材料の一つになります。

なお717条2項で、竹木の栽植・支持の瑕疵にもこの責任が準用されます。建物だけでなく、庭木も対象です(枝が越境している段階の対処は相続した空き家の庭木が越境…近隣トラブル3対処)。また、損害の原因について施工業者など他に責任を負う者がいる場合、占有者・所有者からその者へ求償できることがあります(717条3項)。

「遠方だから自分は占有者ではない」とは言えない

裁判例では717条の「占有者」を、単なる物権法上の占有に限らず、その工作物を管理・支配すべき地位にある者と捉えています。誰が管理しているか、貸しているか、管理会社に任せているかなどで判断が変わるため、「遠方に住んでいるから責任はない」とは言えません。無人の空き家では、所有者自身が717条上の占有者にも当たると判断される場合があり、その場合でも所有者としての責任が問題になる可能性があります。

きょうだいの共有になっている場合も同じです。自治体の案内でも、共有名義の空き家は共有者全員に管理責任があるとされています。ただし、事故が起きたときの賠償が「必ず法定相続分どおり」なのか「全員が全額について連帯」なのかは、誰が管理していたかなどによる個別判断です。「共有だから自分は3分の1だけ」とは限らないと考えておいてください。

ネットでよく見る「賠償2億円」の正体

空き家の記事を探すと、「倒壊して隣家を全壊させ3人死亡=2億860万円」といった数字をよく見かけます。

これは実際の判決額ではありません。 公益財団法人・日本住宅総合センターが公表したモデルケースの試算です。自治体の啓発資料でも引用されていますが、出どころは試算であり、「空き家が倒壊すると2億円を請求される」という意味ではありません。

とはいえ、責任が軽いという話でもありません。 空き家の倒壊や落下について、現在の相場として使える公的な判決額の一覧は見当たりませんでした。だからこそ、「いくら取られるか」で怖がるより、瑕疵のある状態を放置しないほうに意識を向けてください。

近所から「危ない」と言われたら、この順で動く

苦情は嫌なものですが、危険の可能性を知るきっかけでもあります。言われたら、次の順で動いてください。

① 現地を確認し、写真を残す……苦情の内容と日付を記録し、実際の状態を確かめます。写真は業者に相談するときの材料にも、後日の経過確認にも役立ちます。遠方で行けないなら、管理サービスに見てもらう手もあります。

② 危ない箇所の手当てを優先する……落ちそうな瓦、浮いた外壁、傾いた塀。特にブロック塀については、国土交通省が危険箇所への注意表示や補修・撤去を呼びかけています。瓦や外壁も、落下のおそれがあるなら専門業者に安全確認を依頼してください。保険や売却の検討より、まずここが先です。

③ ブロック塀は基準に照らして確認する……建築基準法施行令では、補強コンクリートブロック造の塀について高さ2.2m以下、厚さは高さ2m以下なら10cm以上・2mを超え2.2m以下なら15cm以上、高さ1.2m超なら3.4m以下ごとに控え壁、控え壁の突出は塀の高さの5分の1以上、高さ1.2m超なら基礎の根入れ30cm以上などが定められています(鉄筋のない組積造の塀は別の基準です)。2018年の大阪北部地震を受けた国土交通省のチェックポイントでは、高さ・厚さ・控え壁・基礎・傾きやひび割れを見るよう案内されています。不適合や不明な点があれば専門家に相談してください。

④ 保険で賠償に備えられるか確認する……個人賠償責任保険は個人の「住宅の管理」に起因する法律上の損害賠償責任を補償するもので、火災保険の特約として契約されることが多いとされています。ただし、相続した無人の実家が契約上の「住宅」に含まれるかは商品・約款によります。「特約があるから必ず出る」とは考えず、契約先に確認してください(相続した空き家の火災保険はどうする?5つの確認)。

⑤ 持ち続けるのか、手放すのかを決める……応急処置は時間を稼ぐだけで、傷みは進みます。修繕して持つのか、解体して更地にするのか、現況のまま売るのか。判断を先送りにしている間も、責任だけは続きます。

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解体の費用感は空き家の解体費用と使える2つの補助金、現況のまま手放す選択肢は相続した土地がいらない時の3つの手放し方にまとめています。

行政から手紙が来たら、何が起きるか

近隣からの通報などをきっかけに、市区町村から連絡が来ることがあります。空家等対策特別措置法の段階を押さえておきましょう。

管理不全空家等は、適切に管理されておらず、そのまま放置すれば特定空家等になるおそれのある状態。市町村は指導、そして勧告ができます。特定空家等は、倒壊等により著しく保安上危険となるおそれがあるなど、より深刻な段階で、助言・指導→勧告→命令→代執行の対象になり得ます(ただし、すべての空き家が必ずこの順番で指定されるわけではありません)。

管理不全空家になっただけで、いきなり取り壊されるわけではありません。 国土交通省の調査(2025年3月31日時点)では、特定空家等への助言・指導が42,768件、勧告が4,153件であるのに対し、代執行(略式を含む)は878件、2023年の改正で新設された緊急代執行は12件です。緊急代執行でも、原則として事前の助言・指導や勧告までは必要とされています。

ただし、代執行が行われた場合、その費用は命令等の対象となった義務者に請求されます(納付されなければ、国税滞納処分の例による徴収が行われることがあります)。

そして勧告の段階で、もう一つ効いてきます。勧告を受けると土地の住宅用地特例から外れる可能性があります(「家全体の固定資産税が6倍になる」という説明は不正確です。詳しくは管理不全空き家とは?固定資産税6倍を防ぐ3つの対応)。

なお相続放棄をすると、その相続については初めから相続人でなかった扱いになります。ただし、放棄した時にその空き家を現に占有していた場合は、民法940条により、次の相続人などへ引き渡すまで保存義務を負うことがあります(義務の内容は「保存」にとどまります)。これは717条の「所有者としての責任」とは別の問題なので、混同しないでください。税金・法律の具体的な判断は、税理士・司法書士など専門家に確認してください(損害賠償や相続放棄の法的判断は弁護士、保険の内容は契約先の保険会社が相談先です)。

まとめ

空き家の倒壊・落下について、押さえるべきは3点です。

①「台風だから不可抗力」とは限らない……民法717条で問われるのは、事故の前にその建物が通常備えるべき安全性を欠いていたか。所有者には占有者のような免責の規定がなく、「遠方だから」「共有だから」で軽くなるとも限りません。②ネットの「2億円」はモデル試算……実際の判決額ではありません。金額で怖がるより、瑕疵のある状態を放置しないことです。③苦情は危険を知るきっかけ……内容と日付を記録し状態を確認→危ない箇所を手当て→ブロック塀は基準で確認→保険の対象か確認→持つか手放すかを決める。

今日できる一歩は、実家の外観写真を手に入れることです。自分で見に行けないなら、管理サービスや近所の方の力を借りてください。危ないかどうかは、見ないと判断できません。 実家全体の進め方は実家じまいの進め方7ステップもご覧ください。

よくある質問

台風で瓦が飛んで隣の車を傷つけました。自然災害なので責任はありませんか?

自然災害だからという理由だけで免責されるとは限りません。民法717条で問われるのは、事故の前にその建物が通常備えるべき安全性を欠いていたかです。もともと瓦がずれていたなど瑕疵があり、それが原因で損害が出たなら責任が認められる余地があります。個別の判断になるため、弁護士に相談してください。

空き家が倒壊すると2億円の賠償と聞きましたが本当ですか?

その数字は、公益財団法人・日本住宅総合センターが示したモデルケースの試算で、実際の判決額ではありません。自治体の啓発資料でも引用されているため実例のように広まっていますが、「倒壊すれば2億円」という意味ではありません。ただし責任が軽いわけではなく、金額よりも危険な状態を放置しないことが大切です。

相続放棄をすれば、空き家の管理責任はなくなりますか?

相続放棄をすると、その相続については初めから相続人でなかった扱いになります。ただし、放棄した時にその財産を現に占有していた場合は、民法940条により引渡しまで保存義務を負うことがあります(これは717条の所有者責任とは別の問題です)。「現に占有」にあたるかの判断は事案によるため、放棄を検討しているなら早めに弁護士へ相談してください。

参考にした公式情報

※制度の内容や運用は改正により変わります。個別の責任の有無は事案ごとの判断になります。最新の情報は上記の公式情報や、弁護士・司法書士など専門家にご確認ください。

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