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「相続登記をしないと10万円の罰金」——そう聞いて、気になりながらも手をつけられずにいる方は多いと思います。きょうだいで話がまとまらない、費用が気になる、単に忙しい。理由はさまざまでしょう。
結論から言うと、「3年を過ぎた瞬間に、自動で10万円が請求される」という制度ではありません。 かといって「通知が来るまで放っておけばいい」わけでもありません。私は土地の取引や所有者の方とのやり取りに関わってきました。法律の専門家ではありませんが、法務省・法務局の公開情報をもとに、過料が実際に科されるまでの流れと「正当な理由」を整理します。
ちなみに法務省の調査(2025年9月実施)では、相続登記の義務化を「聞いたことがある」人は71.6%だった一方、「3年以内」という期限まで聞いたことがある人は43.2%。制度は知られていても、中身までは知られていないのが実情です。
「3年を過ぎたら自動的に10万円」ではない
まず、言葉を正確にします。これは罰金ではなく「過料」で、上限は10万円以下(不動産登記法164条1項)。金額を決めるのは裁判所です。「必ず10万円」でもありません。
そして、過料に至るまでには段階があります。現在の運用は次の流れです。
- 登記官が、職務上、申請義務違反を把握する
- 相当の期間を定めて、申請するよう催告する
- その催告にかかる義務を履行すれば、過料の通知はされない
- 履行せず、かつ正当な理由も認められない場合に、登記官が地方裁判所へ通知
- 裁判所が、過料を科すかどうか・金額を判断する
この流れは、不動産登記規則187条1号と、令和5年9月12日付け法務省民二第927号通達で定められています。催告を受けた段階で義務を果たせば、過料は通知されない——ここは、不安を抱えている方にまず知っていただきたい点です。
登記官はどうやって義務違反を知るのか
法務省が現在示している端緒は、意外に限定的です。
- 遺言にもとづいてある不動産の登記を申請したところ、その遺言に別の不動産も同じ人へ承継させると書かれているのに、その登記がされていない
- 遺産分割協議書を添えて登記を申請したところ、その協議書に別の不動産も同じ人が取得すると書かれているのに、その登記がされていない
現在、法務省が催告の端緒として明示しているのは、この2つです。
ただし、だから放置していい、という話ではまったくありません。 端緒が限定的でも、3年以内に申請する法律上の義務は発生しています。そして次の章で見るとおり、「見つからないだろう」は正当な理由にはなりません。
「正当な理由」5つと、そこに入らないもの
正当な理由があれば過料は科されません。法務省の通達は、一般に正当な理由があると考えられる例として次の5つを挙げています。
- 数次相続が発生して相続人が極めて多数となり、戸籍関係書類の収集や他の相続人の把握などに多くの時間を要する場合
- 遺言の有効性や遺産の範囲などが争われ、相続不動産の帰属主体が明らかにならない場合
- 申請義務を負う人自身に重病その他これに準ずる事情がある場合
- DV被害者等で、生命・心身に危害を及ぼすおそれがあり避難を余儀なくされている場合
- 経済的に困窮しているため、登記申請に必要な費用を負担する能力がない場合
重要なのは、これが限定列挙ではないことです。法務省は、5類型以外でも個別の事情を踏まえて正当性があれば認め得るとしています。催告書でも、正当な理由があれば具体的な事情を申告するよう求められます。
一方で、この5つに当たらないものも押さえておきます。単に「忙しかった」「手続きが面倒だった」「登記費用を払いたくなかった」という事情だけでは、法務省が一般的に正当な理由として示す5類型には当たりません(「費用が高いと感じる」ことと、「経済的困窮で費用を負担する能力がない」ことは同じではありません)。ただし最終的には、個別の事情を踏まえて登記官が判断します。
そして、ここが一番誤解されやすい点です。「きょうだいで遺産分割がまとまらない」というだけでは、自動的に正当な理由になるとは言えません。 5類型の②は、遺言の有効性や遺産の範囲が争われて帰属主体そのものが明らかにならないケースを指しています。単に話し合いが進んでいない状態とは違います。
では、まとまらない人はどうすればいいのか。次の章です。
期限はいつか、まとまらないならどうするか
期限の起算点は、「親が亡くなった日から3年」ではありません。正確には、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、その不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内です(不動産登記法76条の2第1項)。不動産の存在を後から知った場合は、起算点が変わります。
2024年4月1日より前に発生した相続については経過措置があります。施行前から相続と不動産の取得を知っていたケースは、原則として2027年3月31日まで。ただし、相続自体は昔でも、2024年4月1日以後にはじめてその不動産を取得したことを知った場合は、その知った日から3年以内です。「古い相続は全部2027年3月31日まで」ではありません。
なお2026年10月時点で、新制度による過料件数を示す法務省の公表統計は確認できませんでした。そもそも最短の義務期限(2027年3月31日)もまだ到来していません。 だからこそ、期限が来る前に動けるのが今とも言えます。
まとまらないなら「相続人申告登記」
遺産分割が決まらない人のために用意されているのが、相続人申告登記です(不動産登記法76条の3)。3年以内に、①その不動産の登記名義人について相続が開始したこと②自分がその相続人であること——を法務局へ申し出れば、基本的な相続登記の申請義務を履行したものとみなされます。
- 相続人の一人から単独で申し出できる(他のきょうだいの同意は不要)
- 法定相続分を確定させる必要がない
- 非課税
ただし、ここは必ず押さえてください。 この申出で義務を履行した扱いになるのは、申出をした本人だけです。ほかの相続人も義務を履行するには、それぞれが申し出るか、複数人分をまとめて申し出る必要があります。「自分が申し出たから、きょうだい全員の分が終わった」ではありません。
さらに限界もあります。これは誰が所有権を取得したかを確定・公示する登記ではありません。 この申出だけでは売却や抵当権の設定はできません。そして、後で遺産分割が成立したら、その成立日から3年以内に、改めて正式な相続登記が必要です(この追加の義務は、相続人申告登記では履行できません)。
話し合いが完全に止まっているなら、遺産分割調停の進め方5ステップと費用の目安もご覧ください。
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※登記の代理は司法書士、きょうだい間の争いの代理は弁護士です。
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費用が気になるなら、免税措置の確認を
2027年3月31日まで、相続登記の登録免許税に免税措置があります。代表的なのは、①相続で土地を取得した人が登記をしないまま亡くなった場合の中間の相続登記②不動産の価額が100万円以下の土地についての相続による所有権移転登記など、の2つです。
注意していただきたいのは、「100万円以下の不動産」ではなく「土地」だという点(持分だけを取得する場合は、土地全体の価額に持分割合を掛けて判定します)。手続きの流れは相続した不動産の名義変更を自分でやる5手順にまとめています。
なお、住所・氏名の変更登記の義務化は別制度です(2026年4月1日施行・変更から2年以内・過料の上限は5万円以下。住所変更登記の義務化とは?2年以内にやる2つのこと)。
税金・法律の具体的な判断は、税理士・司法書士など専門家に確認してください(登記は司法書士、遺産分割の争いは弁護士、相続税は税理士が相談先です)。
まとめ
相続登記の過料について、押さえるべきは3点です。
①「3年を過ぎたら自動で10万円」ではない……罰金ではなく10万円以下の過料で、金額は裁判所が判断します。登記官が義務違反を把握すると、まず催告があり、その期間内に申請すれば過料は通知されません。②「正当な理由」は5類型+個別事情……数次相続で相続人が極めて多数/遺言の有効性や遺産の範囲が争われている/重病等/DV被害等/経済的困窮。単に忙しい・費用を払いたくない、といった事情はこの5類型には当たりませんが、最終的には個別事情を踏まえて登記官が判断します。③まとまらないなら相続人申告登記……単独・非課税で義務を履行できます。ただし義務を果たした扱いになるのは申し出た本人だけで、売却もできず、分割成立後は改めて登記が必要です。
今日できる一歩は、実家の登記事項証明書を取って、名義が誰のままかを確認することです。そのうえで、期限がいつになるかを数えてください。過料以外の放置リスク(次の相続で相続人が増える、売却を進めにくくなる等)は相続登記しないとどうなる?放置5つのリスクに、何代も前の名義のままなら祖父名義のままの土地を相続する3つの手順にまとめています。
よくある質問
過料の10万円は、相続人一人ずつかかるのですか?
過料は「10万円以下」が上限で、必ず10万円というものではありません。金額を含めて判断するのは裁判所です。申請義務を負うのは相続により不動産の所有権を取得した相続人なので、該当する人が複数いれば、それぞれが義務を負うことになります。ただし前提として、催告の期間内に申請すれば過料は通知されません。不安なら、催告を待たずに司法書士へ相談してください。
きょうだいで話がまとまらないのですが、これは「正当な理由」になりますか?
単に話し合いが進んでいないというだけでは、自動的に正当な理由になるとは言えません。法務省が挙げる類型は、遺言の有効性や遺産の範囲が争われて不動産の帰属主体そのものが明らかにならないケースです。分割が決まらない場合は、相続人申告登記を期限内に申し出ることで基本的な義務を履行できます(一人で申し出でき、非課税)。ただし義務を履行した扱いになるのは申し出た本人だけなので、ほかの相続人の分は別に申し出が必要です。
登記費用を払う余裕がありません。これは正当な理由ですか?
法務省の類型には「経済的に困窮しているため、登記申請に必要な費用を負担する能力がない場合」が含まれています。ただし、「費用が高いと感じる」ことと「負担する能力がない」ことは別です。また2027年3月31日までは、価額100万円以下の土地などについて登録免許税の免税措置があります。まずは費用がいくらになるかを確認してみてください。
参考にした公式情報
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」(過料・正当な理由)
- 法務省「相続登記の申請義務化の関係法令等」(令和5年9月12日付け法務省民二第927号通達)
- 法務省「相続人申告登記について」
- 法務省「住所等変更登記の義務化」
- 法務省「新制度の認知度調査結果」
- 法務局「相続登記の登録免許税の免税措置について」
- e-Gov法令検索「不動産登記法」(第76条の2 相続等による所有権の移転の登記の申請・第76条の3 相続人である旨の申出等・第164条 過料)
※制度の要件や運用は改正により変わります。最新の情報は上記の公式情報や、司法書士・弁護士・税理士など専門家にご確認ください。

