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「何度連絡しても、きょうだいの一人が話し合いに応じてくれない」「自分は実家を残したいのに、姉は売って現金で分けたいと言う。ずっと平行線のまま」——。分け方が決まらないと、実家全体の売却や、遺産分割の内容に沿った最終的な名義変更が進められません。固定資産税と管理の負担だけが、毎年続いていく。
そんなときの次の一手が、家庭裁判所の「遺産分割調停」です。調停は勝ち負けを決める裁判ではなく、裁判所に間に入ってもらう話し合い。私は土地の取引や所有者の方とのやり取りに関わってきました。法律の専門家ではありませんが、裁判所・法務省の公開情報をもとに、進め方と費用・期間の目安、そして「先延ばしにしないほうがいい理由」を整理します。
遺産分割調停は「争う裁判」ではなく、裁判所に入ってもらう話し合い
遺産分割調停は、共同相続人のうち1人(または何人か)が、他の共同相続人全員を相手方として申し立てる手続きです。たとえばきょうだい3人なら、1人が申立人になり、残る2人全員を相手方にします。「一人だけを訴える」という形ではありません。
申立て先は、相手方のうち1人の住所地を管轄する家庭裁判所、または当事者が合意して定めた家庭裁判所です。自分(申立人)の住所地や、親が最後に住んでいた場所の家庭裁判所とは限らないので、ここは間違えやすいところです。
調停では、裁判官と調停委員が当事者双方から事情や希望を聞き取り、資料を確認しながら、解決案を示したり助言をしたりして合意を目指します。別々の待合室で待ち、交互または同時に調停委員から話を聞かれる形が一般的です。当事者同士では会話にならない場合ほど、第三者が間に入る意味があります。
なお遺産分割は、法律上は最初から審判を申し立てることもできます(いわゆる調停前置ではありません)が、審判を申し立てても裁判官の判断で調停に付されることがあり、実務ではまず調停からと考えておけば十分です。
また、調停で何でも決められるわけではありません。「そもそもこの不動産は親の財産だったのか」という遺産の範囲や所有権そのものの争いや使途不明金の問題は、別の手続きが必要になる場合があります。そこまでこじれているなら、申し立てる前に弁護士に相談してください。話し合いが決裂する原因そのものは遺産分割でもめる家族の3つの共通点で整理しています。
遺産分割調停の進め方5ステップ
ステップ1:申立ての準備をする(書類集めに手間がかかる)
申立書のほかに、被相続人(親)の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍、遺産の内容が分かる資料(不動産の登記事項証明書・固定資産評価証明書、預貯金の残高が分かるもの等)を揃えます。必要書類は事案によって変わるため、申立て先の家庭裁判所に確認するのが確実です。
戸籍は以前より集めやすくなっており、2024年3月からは「広域交付」で、全国各地の戸籍・除籍を1か所の市区町村窓口からまとめて請求できる場合があります(亡くなった親の子は対象です)。ただし郵送・代理人による請求はできず、コンピュータ化されていない古い戸籍は対象外になるなどの制限があります。戸籍集めの具体的な進め方は相続した不動産の名義変更を自分でやる5手順も参考にしてください。
ステップ2:申立て(費用は「被相続人1人につき1,200円」)
費用でよく誤解されるのが収入印紙です。収入印紙は、被相続人1人につき1,200円。相続人が5人いるから5倍、という数え方ではありません(父と母それぞれの遺産分割を対象にするなら、原則2件分になります)。
これに加えて、裁判所との連絡に使う郵便料(郵便切手)が必要です。こちらは金額・内訳が裁判所や当事者の人数によって異なるため、申立て先の家庭裁判所に確認してください。弁護士に依頼する場合は、これとは別に報酬がかかります。
ステップ3:初回の期日に出席する
申立て後、裁判所から相手方に書類が送られ、第1回の期日が指定されます。家庭裁判所の案内では、第1回期日は申立てから1〜2か月程度先となる例があり、その後も1〜2か月程度の間隔で期日を重ねていきます(裁判所や事案によって変わります)。期日は基本的に平日の日中です。
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ステップ4:実家の「評価額」を決める
実家や土地が主な遺産の場合、調停の山場はここです。不動産の評価額は、まず当事者の間で合意するのが基本で、その材料として固定資産税評価額・相続税評価額・公示価格等・不動産会社の査定などが使われます。
実家を取得する人と代償金を受け取る人とでは、評価額について意見が分かれることがあります。どうしても合意できない場合は、不動産鑑定士による鑑定が必要になることがあります。鑑定費用は、原則として各当事者が法定相続分に応じて負担します(調停で別の負担方法に合意することもでき、審判では裁判所が費用の負担を定めることがあります)。金額は物件や鑑定の内容で変わるため、一律の相場はありません。話し合いの段階で査定を取っておくと、判断の軸ができます。
ステップ5:成立、まとまらなければ「自動的に」審判へ
合意できれば調停成立となり、調停調書が作られます。調停調書には法的な効力があり、これをもとに相続登記を進めることができます。
まとまらなければ調停は不成立となりますが、ここが重要な点です。遺産分割調停が不成立になった場合は、自動的に審判手続きへ移ります。 改めて審判を申し立て直し、印紙を払い直す必要はありません。審判では、裁判官が法律に従って分け方を決めます(一人が取得して他へ代償金を払う、売却して分ける、場合によっては競売など)。
期間の目安は、最高裁判所「裁判の迅速化に係る検証」の第11回報告書が参考になります。遺産分割事件全体の平均審理期間は12.1か月で、1年を超えた事案が3割を超えています(調停だけを取り出した数字ではありません)。不動産の評価などで争点が増えるほど長引くと考えてください。
調停を先延ばしにしないほうがいい2つの理由
「気が重いから、もう少し様子を見よう」——気持ちは分かりますが、待っても状況はよくなりません。むしろ、制度のうえで不利になる場面があります。
理由1:相続開始から10年で「特別受益・寄与分」を反映しにくくなる
2023年4月1日施行の民法改正により、相続開始から10年を過ぎると、原則として、特別受益や寄与分を反映した「具体的相続分」による遺産分割を求めることができなくなり、法定相続分(または遺言による指定相続分)が基準になります。生前の住宅資金の贈与が特別受益に当たる場合や、親の介護などが法律上の寄与分として認められる場合でも、それを主張しにくくなる、ということです。
誤解しないでいただきたいのは、10年経ったら遺産分割そのものができなくなるわけではない点です。例外もあります。期限内に家庭裁判所へ遺産分割の請求をしていれば、手続きが10年を超えても具体的相続分を反映できます。また、期限満了前6か月以内にやむを得ない事情で申立てができず、その事情がなくなってから6か月以内に家庭裁判所へ請求した場合などにも例外があり、相続人全員が合意すればそれらを考慮した分割をすることも可能です。
経過措置として、2023年4月1日の時点ですでに古かった相続——2018年4月1日より前に開始した相続については、2028年3月31日までの猶予があります。「父が亡くなってもう15年、話し合いが宙に浮いたまま」という家庭ほど、期限が近づいています。
理由2:調停中でも、相続登記の3年の期限は止まらない
2024年4月から相続登記が義務化され、自己のために相続の開始があったことを知り、かつその不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に登記申請が必要です。遺産分割がまとまらず調停中であっても、この3年の時計は止まりません。
そこで使えるのが相続人申告登記です。これは、遺産分割がまとまらない間に、基本的な相続登記の申請義務を簡易に履行するための制度で、相続人の1人から単独で申し出できます(他のきょうだいの同意は不要)。
ただし所有権や持分を確定させる登記ではないため、この申出だけでは不動産を売却できません。後に遺産分割が成立して不動産を取得した人は、その成立日から3年以内にあらためて相続登記が必要です。相続登記を放置した場合のリスクは相続登記しないとどうなる?放置5つのリスクで詳しく書いています。
なお調停は、弁護士に依頼しなくても本人で申し立てることができます。ただし、特別受益や寄与分でもめている、使途不明金がある、不動産の評価が大きく割れている、相手方に弁護士がついている——こうした場合は、法律的な整理と資料の出し方で差が出ます。税金・法律の具体的な判断は、税理士・司法書士など専門家に確認してください(遺産分割の争いや調停の代理は弁護士、登記は司法書士、相続税は税理士が相談先です)。
まとめ
遺産分割調停は、裁判所に間に入ってもらう話し合いです。相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所へ、収入印紙は被相続人1人につき1,200円+郵便料で申し立てられ、不成立なら自動的に審判へ移ります。放置すれば10年で特別受益・寄与分を反映しにくくなり、その間も相続登記の3年の期限は進みます。
今日できる一歩は、①親の戸籍と不動産の資料を集め始めること②自分の相続登記の期限を確認し、間に合わないなら相続人申告登記を検討することです。分け方の選択肢は実家を兄弟で相続したときの分け方4つと注意点、売って分ける方法は換価分割とは?実家を売って兄弟で分ける3注意点、全体の進め方は実家じまいの進め方7ステップもご覧ください。
よくある質問
相手方が複数いると、収入印紙は人数分かかりますか?
いいえ。収入印紙は被相続人1人につき1,200円で、相手方の人数で増えるものではありません(父と母それぞれの遺産分割を対象にする場合は、原則としてその分が必要です)。別途、連絡用の郵便料がかかり、こちらは裁判所や当事者の人数によって異なるため、申立て先の家庭裁判所に確認してください。
調停がまとまらなかったら、また一から申し立て直しですか?
いいえ。遺産分割調停が不成立になった場合は、自動的に審判手続きに移ります。改めて審判を申し立てる必要はありません。審判では裁判官が分け方を決めるため全員が納得する形とは限りませんが、話し合いが止まったまま動かない状態は解消されます。
調停をしている間は、相続登記の3年の期限は待ってもらえますか?
待ってもらえません。調停中でも3年の期限は進みます。通常の相続登記が難しい場合は、期限内に相続人申告登記を申し出れば、基本的な申請義務を簡易に履行できます(相続人の1人から単独で可)。ただし所有権を確定する登記ではないため、これだけでは売却できず、遺産分割の成立後にあらためて相続登記が必要です。
参考にした公式情報
- 裁判所「遺産分割調停」(申立人・相手方・管轄・費用・不成立後の審判移行)
- 裁判所「家事調停の申立て」
- 裁判所(京都家庭裁判所)「遺産分割調停」(不動産の評価・鑑定費用の負担)
- 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について」(戸籍証明書等の広域交付)
- 裁判所「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書(第11回)家事事件」
- 法務省「民法等の一部を改正する法律(令和3年法律第24号)について」(遺産分割に関する10年の期間制限・経過措置)
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 法務省「相続人申告登記について」
- e-Gov法令検索「民法」(第904条の3 期間経過後の遺産の分割における相続分)
※制度の要件や手続きは改正や個別の事情により変わります。最新の情報は上記の公式情報や、弁護士・司法書士・税理士など専門家にご確認ください。

