親が施設に入った実家はいつ売る?3つの期限

相続した土地

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親が老人ホームに入り、実家には誰も住まなくなった。もう戻ることはないだろうと思う一方で、「まだ親は生きているのに、家を売ってしまっていいのか」という気持ちもある。きょうだいとも話がまとまらない——。

決めかねているあいだに、実は3つの「時計」が静かに動き出しています。 慌てて売る必要はありませんが、期限があることを知らないまま時間が過ぎると、選べたはずの選択肢がなくなります。私は土地の取引や所有者の方とのやり取りに関わってきました。法律の専門家ではありませんが、国税庁・裁判所などの公開情報をもとに、生前に売る場合と相続後に売る場合の違いを整理します。

親が施設に入ったとき、動き出す3つの時計

① 税金の時計……親本人が自宅を売るときのマイホーム3,000万円特別控除は、以前住んでいた家について「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」に売ることが条件です。たとえば2026年中に施設へ移り、その年に実家を生活の本拠として使わなくなったなら、期限は2029年12月31日。約3年あるようですが、査定・媒介契約・買主探し・契約・引渡しには時間がかかることがあるため、期限ぎりぎりではなく余裕を持って検討してください。

② 親の判断能力の時計……意思能力を欠いた状態で行った契約は無効です。認知症という診断だけで売却できなくなるわけではありませんが、売買契約の内容を理解して判断する意思能力を欠く場合、親本人による有効な売買契約はできません。売却を進めるために成年後見制度の利用が必要になるケースがあり、成年後見人が本人の居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要です。しかもこの「居住用不動産」には、今は施設にいて住んでいなくても、入所前まで住んでいた家や将来戻る可能性がある家が含まれ得ます(認知症の親の家が売れないときの3つの対処法)。

③ 相続後の制度の時計……「相続まで待てばいい」と考えている方は、次の章を必ず読んでください。相続後に使える特例は、親本人が使えるものとは別制度で、要件がかなり厳しいうえ、こちらにも期限があります。

親が生前に売る場合:使える特例と、落とし穴

親名義の家を親本人が売るなら、マイホームを売ったときの3,000万円特別控除が使える可能性があります。ここが重要なのですが、この特例に「要介護認定を受けていること」「特定の老人ホームであること」といった追加要件はありません。実際にその家を自分の居住用として使っていたこと、そして先ほどの3年の期限といった、通常のルールを満たすかどうかで判断されます。

さらに、売った年の1月1日時点で家屋・敷地の所有期間が10年を超えているなどの要件を満たせば、所有期間10年超の軽減税率の特例を併用できます。

落とし穴を2つ挙げます。

解体して土地だけ売るなら、別の期限がある……家屋を取り壊して土地だけを売る場合、3年の期限(=譲渡の期限)に加えて「取り壊した日から1年以内に売買契約を結ぶこと」「取り壊してから契約までの間、その土地を貸駐車場など他の用途に使っていないこと」が必要です。契約は1年以内、譲渡は3年の期限内という二重の縛りで、「更地にしてから3年かけて売ればいい」ではありません。

「3年に1度しか使えない」は正確ではない……正確には売った年の前年・前々年に、この特例など一定の特例を受けていないことが要件です。

なお、売却代金は親名義の不動産を親が売る以上、原則として親の財産です。親の施設費用や生活費に充てるのは自然ですが、子が自分の財産として受け取ると贈与税の問題が生じ得ます。代金は親名義の口座で受け取り、親のお金として管理するのが分かりやすい形です。

相続してから売る場合:同じ控除が使えるとは限らない

ここが、この記事で一番お伝えしたい点です。

相続後に売るときの被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除は、名前が似ていますがまったくの別制度です。しかも、親が施設に入っていた場合に使うには、次のような要件を満たす必要があります。

  • 自宅を離れて施設へ入る際に、要介護認定・要支援認定等を受けていたこと
  • 特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、介護老人保健施設、サービス付き高齢者向け住宅など一定の施設に入所していたこと
  • 入所の直前までその家屋を居住用にしていたこと、かつ施設へ移る直前に、親以外の人がその家に住んでいなかったこと
  • 入所後から亡くなる直前まで、その家屋を事業・貸付け・親以外の人の居住の用に供していないこと
  • 入所後も亡くなる直前まで、親の家財・物品の保管など、引き続き親のために使われていたこと

さらに家屋そのものにも、1981年5月31日以前に建築されたこと、区分所有建物でないことといった要件があります(相続した空き家の3000万円控除を使う5つの条件)。相続人が3人以上の場合は控除の上限が2,000万円です。

そして、この特例にも期限があります。 原則として相続開始の日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があり、それとは別に、現行制度自体の適用期限が2027年12月31日です(2026年10月時点)。「③相続後の制度の時計」とは、この2つのことです。

つまり「親が亡くなってから子が同じ3,000万円控除を使えばいい」とは限りません。 比較的新しい家なら、そもそも対象外です。配偶者や他のきょうだいが実家に残っていた場合も、要件から外れることがあります。

「売るまで貸しておこう」の意味が、生前と相続後で違う

よく出る選択ですが、ここは分けて考えてください。親本人の通常の3,000万円控除では、家屋を取り壊さずに残している場合、住まなくなった後に別の用途に使っていても、期限などを満たせば適用できる場合があります。一方、相続後の空き家特例は、施設入所後に貸したり他の人を住まわせたりすると要件を外れる可能性が高いです。しかも施設入所から死亡までだけでなく、相続してから売却するまでの間も、原則として貸したり他人を住まわせたりしないことが要件になります。「家賃を得ながら売り時を待つ」判断は、どちらのルートを想定するかで意味が変わります。

相続後に有利になることもある

もちろん、待つことで使える制度もあります。小規模宅地等の特例は、被相続人が要介護・要支援認定等を受けて一定の老人ホーム等に入所し、入所後にその家を事業用や新たに他人の居住用にしていなければ、特定居住用宅地等として330㎡まで80%減額の対象になり得ます。

ただし、取得する側にも要件があります。配偶者、同居していた親族、一定の要件を満たす別居親族などに限られ、親とは別居して自分の持ち家に住んでいる子が相続するケースでは使えないことがあります。取得者の区分によっては相続税の申告期限まで所有し続ける必要があるため、「相続したらすぐ売る」と特例に影響する場合もあります。

また、相続した不動産の取得費と所有期間は、原則として親のものを引き継ぎます。相続税を納めている場合は取得費加算の特例が使えることもありますが、これにも売却の期限があります。さらに、取得費加算と相続空き家の3,000万円控除は、同じ譲渡について原則どちらかを選ぶ関係です。

生前に売るか相続後に売るかは、築年数・親の認定状況・相続税がかかる規模か・
誰が相続するかで結論が変わります。相続に対応できる税理士を無料で紹介してもらい、期限が来る前に試算しておくと安心です。

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税金だけで決めないでください

ここまで税の話を続けてきましたが、税金だけで決める話ではありません。

親がまだ「家に帰りたい」と言っているなら、その気持ちは判断材料です。そして法的にも、親に意思能力がある限り、売るかどうかを決めるのは所有者である親です。きょうだいは将来の相続人ではありますが、親単独名義の不動産について決める立場にはありません(とはいえ、後のトラブルを避けるために話し合っておく価値はあります)。

持ち続けるコストも見てください。固定資産税は、親が施設に移っても原則として毎年1月1日時点の所有者に課税されます。管理が行き届かず管理不全空家などとして市区町村から勧告を受ける段階になると、土地の住宅用地特例から外れる可能性があります(「空き家になった瞬間に固定資産税が6倍」という説明は不正確です。管理不全空き家とは?固定資産税6倍を防ぐ3つの対応)。遠方なら、通う交通費と時間もかかります。また、空き家になると火災保険の契約条件や補償範囲が変わることがあるので、保険会社に使用状況を伝えて確認してください。

税金・法律の具体的な判断は、税理士・司法書士など専門家に確認してください(譲渡所得・相続税は税理士、登記は司法書士、成年後見の申立ては弁護士・司法書士が相談先です)。

まとめ

親が施設に入って実家が空き家になったら、3つの期限を意識してください。

①税金の期限=親本人のマイホーム3,000万円控除は「住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで」(解体して土地だけ売るなら、取り壊しから1年以内の契約も必要)。②親の判断能力=売買契約を理解して判断する意思能力を欠くと本人は売れず、成年後見人による居住用不動産の処分には家庭裁判所の許可が要ります。③相続後の制度は別物=相続空き家の3,000万円控除は、要介護等の認定・一定の施設・入所後も相続後も貸していないこと・1981年5月31日以前の建築といった厳しい要件があり、しかも相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限と、制度自体の適用期限2027年12月31日があります。「待てば同じ控除が使える」とは限りません。

今日できる一歩は、親が実家に住まなくなった日がいつかを確認し、3年後の年末をカレンダーに書き込むことです。そのうえで、家の築年数(1981年5月31日以前かどうか)と、親が施設に入るときに要介護認定等を受けていたかを確認すれば、どちらのルートが現実的かが見えてきます。実家全体の進め方は実家じまいの進め方7ステップ、売るときの税金は相続した家を売るときの税金3つと節税の特例もご覧ください。

よくある質問

親が施設に入ったら、3年以内に売らないと損ですか?

「損」と決めつける必要はありません。3年を過ぎると親本人のマイホーム3,000万円控除が使えなくなるのは事実ですが、相続後に小規模宅地等の特例や取得費加算が有利に働くケースもあります。築年数・親の認定状況・相続税がかかる規模か・誰が相続するかで結論が変わるため、期限が来る前に税理士に試算してもらうのが確実です。

相続してから売れば、同じ3,000万円控除が使えますか?

使えるとは限りません。相続後の特例は別制度で、要介護認定等・一定の施設・入所後も相続後も貸していないこと・1981年5月31日以前の建築で区分所有建物でないことなどが必要です。相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までという期限もあります。比較的新しい家やマンションは対象外です。

親が認知症になったら、子が代わりに売れますか?

代わりにサインすることはできません。売買契約を理解して判断する意思能力を欠いた状態の契約は無効です。成年後見制度を使うことになりますが、成年後見人が本人の居住用不動産を処分するには家庭裁判所の許可が必要で、施設入所中でも入所前に住んでいた家は居住用不動産に含まれ得ます。

参考にした公式情報

※制度の要件や期限は改正や個別の事情により変わります。最新の情報は上記の公式情報や、税理士・司法書士・弁護士など専門家にご確認ください。

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