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「親のいらない土地や空き家を相続放棄すれば、管理も税金も全部終わると思っていた」——。ところが、相続放棄をしても一定の「管理(保存)義務」が残ることがあると知って、不安になる方は少なくありません。「自分は住んでいないのに義務があるのか」「全員で放棄したら、誰が最後に管理するのか」「放棄したのに固定資産税の通知が来た」——。相続放棄の”あと”の話は、意外と知られていません。
私はかつて土地の取引や所有者の方とのやり取りに関わる中で、名義や管理の確認を後回しにすると、あとから対応に迷いやすいと感じる場面がありました。専門家ではありませんが、その経験から言えるのは、相続放棄した後に保存義務が問題になるかは、放棄の時点でその土地や家を現に占有していたかが重要な分かれ目になる、ということです。この記事では、相続放棄した土地の管理義務について、押さえておきたい3つの注意点を整理します。
相続放棄しても管理義務は残る?2023年の改正で変わったこと
まず前提として、2023年(令和5年)4月の民法改正で、相続放棄をした人の義務の考え方が整理されました。
改正前は、相続放棄をした人が「次に相続人となった人が管理を始められるまで、管理を継続する」とされ、誰がどこまで義務を負うのか分かりにくいものでした。改正後の民法940条では、相続放棄をした時に、その財産を「現に占有している」場合に限り、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで、自分の財産と同じ程度の注意をもって「保存」する義務を負う、という形に整理されています。
ポイントは、相続放棄をした人が全員、当然に管理義務を負うわけではないという点です。放棄の時点でその土地や家を現に占有していたかどうかが、義務の有無を分ける入口になります。
相続放棄した土地の管理で押さえる3つの注意点
注意点1:「現に占有していたか」で、義務の有無が変わる
保存義務が問題になるのは、放棄の時に財産を現に占有していた場合です。たとえば、その家に住んでいた、実際に使っていた、鍵や荷物を管理していた、定期的に手入れをしていたなど、実質的に管理していた事情があると、「現に占有していた」かどうかが問題になることがあります。
一方、遠方の土地で一度も使ったことがなく、実際の管理もしていなかったような場合は、保存義務が問題にならない可能性があります。ただし、どこからが「現に占有」にあたるかは個別の事情で判断されるため、「遠方だから絶対に義務はない」と自己判断するのは危険です。自分のケースが該当しそうか不安なときは、弁護士や司法書士に確認しましょう。
注意点2:保存義務は「引き渡すまで」で、無期限ではない
「一度占有していたら、ずっと管理し続けなければならないのか」と心配になるかもしれませんが、保存義務は無期限に続くものではありません。民法940条は、相続人または相続財産清算人へ引き渡すまで保存義務が続くと定めています。
つまり、次の相続人や相続財産清算人へ引き渡すことで、保存義務を終える方向で整理できます。ただし、引渡しの方法や相手は個別に確認が必要です。他に相続する人がいるならその人へ、相続する人がいなくなった場合は、次の注意点で触れる「相続財産清算人」へ引き渡す流れになります。
注意点3:全員が放棄したら、相続財産清算人の選任を検討する
後順位の相続人(兄弟姉妹や甥・姪など)も含めて相続人全員が放棄し、結果として相続する人がいなくなった場合、その土地や空き家を相続する人がいなくなります。このとき、管理する人が自動的に現れるわけではありません。現に占有していて保存義務を終わらせたい場合や、財産を清算する必要がある場合は、家庭裁判所に相続財産清算人(かつての「相続財産管理人」)の選任を申し立てることを検討します。清算人が財産を管理・清算し、残った財産は最終的に国庫へ帰属します。
ただし、ここには費用の壁があります。裁判所の案内では、申立てに収入印紙・郵便切手・官報公告料が必要です。さらに、清算人が管理する費用や報酬に不足が見込まれる場合、家庭裁判所から予納金を求められることがあります。金額は財産の内容や裁判所の判断によって変わり、決して小さくない負担になることもあるため、申し立てる前に家庭裁判所や専門家に確認しておきましょう。
相続放棄や相続財産清算人の申立ては、弁護士・司法書士など対応できる専門家に確認しましょう。相談サービスを使う場合も、対応できる範囲を確認すると安心です。
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なお、放棄する前の判断やデメリット全般は相続放棄の前に知るべき5つのデメリットもあわせてご覧ください。
放棄したのに固定資産税の通知・近隣の苦情が来たら
相続放棄をしたのに、固定資産税の納税通知書が届くことがあります。これは、自治体が放棄の事実をまだ把握していない、相続人代表者として扱われている、登記や現所有者の情報が整理されていない、といった理由が考えられます。「通知が来た=納税義務が確定した」「通知が来た=管理義務がある」とは限りません。必要書類や扱いは自治体によって異なるため、家庭裁判所が発行する相続放棄申述受理通知書の写しなど、求められる書類を市区町村の固定資産税担当課に確認しましょう。放置すると手続きが進まないため、早めの連絡が安全です。
また、空き家の草木・倒壊・不法投棄などについて、近隣や自治体から連絡が来ることもあります。この場合も、相続放棄後にどこまで対応する立場にあるかは、固定資産税の扱い・空き家法や条例・民法940条の保存義務などを分けて考える必要があります。ここでも「放棄の時に現に占有していたか」が重要な判断材料になります。感情的に対応する前に、まず事実関係を整理し、専門家に相談するのが安全です。
相続放棄と相続土地国庫帰属制度、どちらを選ぶ
「いらない土地を手放したい」ときの選択肢として、相続放棄とよく比較されるのが相続土地国庫帰属制度です。両者は目的が違います。
- 相続放棄:土地だけを選んで放棄することはできず、預貯金など他の財産も含めてすべてを相続しない選択。原則3か月以内に家庭裁判所へ申述し、いったん受理されると、原則として撤回できません。
- 相続土地国庫帰属制度:いったん相続したうえで、土地だけを、要件を満たせば国に引き取ってもらう制度。ただし、建物がある土地、境界が明らかでない土地、担保権がある土地などは対象外になることがあり、審査手数料や承認後の負担金もかかります。
借金など負債も含めて相続全体を受け継ぎたくないなら相続放棄、他の財産は引き継ぎたいが特定の土地だけ手放したいなら国庫帰属、というように使い分けます。国庫帰属制度の詳しい条件は相続土地国庫帰属制度で土地を手放す3条件をご覧ください。税金・法律の具体的な判断は、税理士・司法書士など専門家に確認してください(相続放棄や保存義務・相続財産清算人の申立ては、家庭裁判所や弁護士・司法書士が相談先になります)。
まとめ
相続放棄した土地の管理義務は、次の3点で考えると整理しやすくなります。①2023年改正後は「放棄の時に現に占有していた」場合に限り保存義務が残る(遠方で未占有なら問題にならない可能性があるが、線引きは個別判断)②保存義務は無期限ではなく、次の相続人か相続財産清算人へ引き渡すまで③全員が放棄したら、相続財産清算人の選任を検討する(ただし予納金の負担に注意)。
「相続放棄すればすべて終わる」とは限りませんが、正しく理解すれば過度に恐れる必要もありません。今日できる最初の一歩は、自分が対象の土地・家を「現に占有していたか(住んでいた・鍵や荷物を管理していた等)」を振り返り、固定資産税の通知や近隣連絡が来ているなら、相続放棄申述受理通知書を手元に用意すること。そのうえで、判断に迷う部分は家庭裁判所や弁護士・司法書士に確認すれば、次に確認すべき手続きや相談先を整理しやすくなります。
よくある質問
遠方で一度も使っていない土地でも、相続放棄後に管理義務がありますか?
2023年改正後の民法940条では、保存義務が問題になるのは「放棄の時に現に占有していた」場合とされています。遠方で一度も使ったことがなく、実際の管理もしていなかった土地なら、保存義務が問題にならない可能性があります。ただし、鍵や荷物を管理していた、時々手入れをしていた等の事情があると判断が変わることもあり、線引きは個別のケースによります。不安な場合は弁護士・司法書士に確認しましょう。
相続人全員が放棄したら、その土地は誰が管理するのですか?
全員が放棄しても、管理者が自動的に現れるわけではありません。現に占有していて保存義務を終わらせたい場合や、財産を清算する必要がある場合は、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることを検討します。清算人が管理・清算し、残った財産は最終的に国庫へ帰属します。ただし、清算人の管理費用等に不足が見込まれると予納金を求められることがあり、金額も小さくない場合があるため、事前に家庭裁判所や専門家に相談しましょう。
相続放棄したのに固定資産税の通知が来るのはなぜですか?
自治体が放棄の事実をまだ把握していない、相続人代表者として扱われている、登記や現所有者情報が整理されていない、などの可能性があります。通知が来た=納税義務や管理義務が確定した、とは限りません。相続放棄申述受理通知書の写しなどを添えて、市区町村の固定資産税担当課に確認してください。放置すると手続きが進まないため、早めの連絡が安全です。
参考にした公式情報
- e-Gov法令検索「民法」(第940条 相続の放棄をした者による管理・保存義務)
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- 裁判所「相続財産清算人の選任」
- 法テラス「相続放棄をした場合の管理義務」
- 政府広報オンライン「相続した土地を手放したいときの相続土地国庫帰属制度」
- 法務省「相続土地国庫帰属制度において引き取ることができない土地の要件」
※制度の要件や費用は改正や個別の事情により変わることがあります。最新の情報は上記の公式情報や、家庭裁判所・弁護士・司法書士など専門家にご確認ください。

